- 1982年に赴任した国立栃木病院でのボスは診療の傍ら、精力的に講演会やマスコミ等で漢方医学の啓蒙活動をしていた村田高明先生でした。初めての面談の際、村田先生は、こう語りました。「将来、医師が病院でコンピューターを使う時代がくる。カルテだってコンピューター化される。また、漢方も今は古い医療と認識されているが、将来、現代の医学と併用されるようになる。君は今すぐに、この二つの分野を勉強しはじめなさい。」
- 20年も先輩の言葉に、コンピューターを前に現代医学と漢方医学を併用する未来の自分を想像してみましたが、当時としては、まったくSFの世界でした。
- 長い年月が過ぎ、今度は南多摩病院の院長に就任した村田先生に迎えられました。数年後村田先生は別の病院に異動されましたが、長年村田先生の漢方外来に通院中の患者さんの一部は、ご希望で二つの病院を行き来し診療連携が続きました。
- いま、電子カルテに向かい現代医療と漢方医療を行っているとき、本当に昔想像した未来の時代の中に自分はいる、あのとき学び始めていてよかったという感慨が頭をよぎります。現在、村田先生も複数の病院で漢方外来をおこなっています。
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貧血、鉄剤シロップという選択
- 女性は月経や妊娠に関連して、男性の20倍貧血になりやすいとも言われます。そのほとんどは「鉄欠乏性貧血」で、鉄剤で治療します。
- 毎年、健康診断で貧血治療を指導されても鉄剤内服による吐き気のため貧血の治療をあきらめている方が意外と多いのが現実です。
- 貧血は酸素の運搬役の赤血球が不足する状態です。全身に十分な酸素を供給するために、薄くなった血液を循環させようと心臓はスピードを上げて対応する結果、長期には心臓肥大などで心臓を痛めてしまいます。また、貧血に慣れていると普段何とも感じませんが大きな病気や大ケガの際、回復が悪かったり、普通なら輸血が不要な状態でも、輸血が必要になったり、うつ状態になったりします。
- そこで、おすすめするのは、「小児用の鉄剤シロップ」です。分娩までに確実に貧血を治したい多数の妊婦さんに処方してきましたが、吐き気のため内服を中止した方をみたことがありません。もちろん、妊婦さんでなくても内服できます。また増血効果も十分です。
隠れた貧血とフェリチン
配糖体(ハイトウタイ)は自然からの贈り物
- 漢方薬の多くは配糖体とよぶ一群の化合物を各種含んでおり、これらが薬効の源になっていることが多いのです。配糖体は「糖」と「非糖成分(糖以外の成分)」が強く結合したもので、各種の薬効成分は非糖成分中に存在します。
- ところが糖が結合したままでは、通常、非糖成分を人間は吸収して利用することができませんし、人間の消化液もこの結合は切り離せません。そのかわり、大腸に住むごく一部の菌が糖の部分を切り離して非糖成分を裸の状態にしてくれるおかげで、人間は非糖成分を吸収でき、その薬効の恩恵を受けられるようになります。この菌たちを資化菌(シカキン)といい、配糖体ごとに特定の菌が資化菌として活躍します。
- 植物が作り出す各種の配糖体と大腸内に自然発生する資化菌のコンビは人間にとって、自然からの贈り物といえます。
- 初めて飲む漢方薬の場合、最初の数日間、便が緩んで、またもとに戻ることがあります。これは普段は少数派の資化菌が切り離した糖を栄養源にして増殖し大腸内の各種の菌の勢力バランスが一時的に変化するためと考えられています。
見える当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)効果
- 当帰芍薬散は数千年前から女性の一生に関わる漢方薬として使い続けられています。生理不順、生理痛、PMS、無排卵、妊娠出産の各種トラブル、更年期症候群等々、使い方次第で、効能は多岐にわたり効果も十分に期待できます。
- 妊娠希望で基礎体温をつけている場合、当帰芍薬散を内服開始すると多くは次の月経周期から基礎体温が変化しはじめます。これは身体がホルモン分泌をコントロールする能力を取り戻しつつあることを示しています。数ヶ月後に基礎体温の形がきれいになると妊娠の期待が高まります。これは当帰芍薬散によって排卵や高温期の維持が改善されていく過程をを目で見ているわけです。
- 当帰芍薬散について。①食前に内服するのが原則ですが空腹時だと胃がもたれるようなら食後の内服も可で効果もかわりません。②製薬メーカーによって生薬の構成が異なることがあり、人により別のメーカー製品に変更すると効果がよくなることがあります。 ③内服中に妊娠した場合はそのまま内服を継続すると流産防止効果が期待できます。
五苓散(ゴレイサン)と青い鳥
- 漢方薬には五苓散などの「利水剤(リスイザイ)」とよばれるものが各種あり、体の各所の水分分布の病的なアンバランスを速やかに整える作用があります。
- 1992年に、全身の細胞の壁に「アクアポリン」という、水1分子がやっと通過できる極小の穴を持つタンパクが発見されました。アクアポリンの穴は一種の水門で開閉によって水だけを細胞に出入りさせ、水以外の物質は一切通さないという画期的なシステムでした。現代薬にはアクアポリンに作用するものはなかったので、これを応用した世界初の理想の新薬開発が期待されました。
- その後の研究で、数千年前からあると考えられる五苓散がまさにこのアクアポリンの穴をコントロールし水分調整をしていることが証明されました。
- 探し求めていた幸せの青い鳥は、気づかなかっただけで、ずっと前からそばにいたというメーテルリンク作の童話劇「青い鳥」を思わせるエピソードです。
基礎体温と上手につきあおう
雨と頭痛と利水剤(リスイザイ)
- 天気が下り坂になると頭痛や吐き気、だるさに襲われる方は意外と多いようです。気圧が急降下中に脳血管内の圧力がそれについて行けず、相対的に脳血管内の圧力が上昇、膨張した血管が周囲の脳神経を圧迫するためという仮説があります。気象病ともよばれます。
- 毎回、症状がひどく日常生活に影響する方の場合、体内の水分分布の不均衡を速攻で修正できる「五苓散(ごれいさん)」を代表とする漢方薬の「利水剤」が著効する例がよくみられます。五苓散内服後最短15分ほどで効果が出始め数時間以上効果が続きますので、低気圧の気配を感じてからの内服でも通常間に合います。
- ちなみに気象病を予報するというスマホアプリがあります。→「頭痛ーる」
NILM(エヌアイエルエム・ニルム)は大丈夫のしるし
子宮腟部びらん(シキュウチツブビラン)は病気?
- 子宮頚がん検診の結果で「子宮腟部びらん」という用語を目にします。この正体は子宮頚管がめくれ、その奥にある毛細血管で覆われた粘膜が赤く浮き上がって見える状態の表現です。ほとんどは問題ありませんが、まれに子宮頚がんのこともありますので、記録と子宮頚がん検診が必要です。
- 女性ホルモンの影響を強く受け、生理のある女性では大なり小なりよくみられます。閉経するとめくれていた子宮頚管が縮み見えにくくなります。
- 子宮腟部びらんは<子宮頚がん検査が異常なければ>病気ではなく単なる自然現象です。